経営者の資質④~勉強家であること

商社の本懐

経営はセンスだということをよく耳にします。全くその通りだと思っています。そして同時に、経営はサイエンスである、とも考えています。

ちょっと話がズレますが、私の尊敬する政治家の一人に陸奥宗光という人物がいます。明治時代外務大臣として不平等条約の修正に辣腕を振るい、カミソリ大臣として名をはせた政治家です。彼はこんな言葉を残しています。
「そもそも政治なる者は術(アート)なり、学(サイエンス)にあらず。故に政治を行なうの人に巧拙(スキール)の別あり。巧みに政治を行ない、巧みに人心を収攪するは、すなわち実学実才ありて広く世勢を練熟する人に存し、決して白面書生机上の談の比にあらざるべし。」


この政治について語った陸奥の言葉はそのまま、ビジネスに転用できます。実学はまさにビジネスの根本です。

私はよく、やっかみも込めて(笑)、MBA保持者のことを、< まぬけ(M)、ばか(B)、あほ(A)>と揶揄していますが、確かに海外のMBA保持者の大概の人は優秀ですが、中にはとんでもない教条主義的な人もいて、机上の空論を振りかざして議論を進めるから話がかみ合わないというような経験もしました。でも本当は陸奥が言う学(サイエンス)の部分は、とても大切なのです。陸奥自身、若いころは大変な勉強家で、机上の空論を振りかざすような青二才でもありました。それを踏まえたうえでの彼の人生であり、彼の言葉であることを忘れてはいけません。彼が彼の言葉通り、異才(アート)を発揮し不平等条約の修正というとてもむつかしい交渉を成功させたのはまさに彼の言う巧拙(スキール)のたまものです。
しかし「カミソリ」と異名をとった陸奥宗光のまさにアートとも言える外交交渉のセンスやアイデアは、彼の幅広い教養の下地があったからこそでもあることを決して忘れてはなりません。

オーケストラの楽器奏者が音符が読めなければ素晴らしい演奏ができないように、経営におけるビジネスセンスも、基礎としてのサイエンスの部分がなければ発揮できるものではないと思っています。もちろん、そのサイエンスの部分は、それこそ実学で、社会で経験を重ねてゆくうえで取得してゆくのが本来かもしれません。しかし、今はマネジメントやマーケティングに関するいろんな教本やeラーニングもありますので、それを活用することは手っ取り早い方法でしょう。また、MBAレベルではないものの、中小企業診断士という国家資格の勉強をするのも有効な方法でしょう。特にこの試験の7科目のうち財務会計と企業経営理論は非常に役に立ちます。私は、起業した時に、経営の勉強のため中小企業診断士の試験にチャレンジしました。各教科の知識を問う1次試験は受かったものの、コンサル実務の能力を問う2次試験で落ちてしまいましたが、経営知識を取得するためには1次試験合格で十分だと思います。コンサルタントになるわけでもないし(負け惜しみですが(笑))

経営者は経営のプロフェッショナルであるべきだと思います。難しいことはコンサルに、経理は税理士に任せて、遊び惚けているような経営者ではなく、日々研鑽を積み、勉強し、そして実践してゆく。陸奥宗光の言葉をもちいれば、アート(術)とサイエンス(学)、両方をうまく活用出来てはじめて巧拙(スキール)が身につく。
このことはとても大切な事だと思います。