経営者の資質⑤~孤独に戦えること

商社の本懐

言葉を変えると、一匹狼であること。

しかしそれは一人で戦うという意味ではない。

私自身、オランダに支店を作った時も、台湾に子会社を作った時も、現地に強力なパートナーがいたし、現地の公的支援も受けてきた。到底一人では、そして自社だけではなしえない事業だった。業界の中でも、いろんな協力会社があって、今の弊社は成り立っている。社内でもそうだ。社員一人一人の協力があってこそ事業が成立しているのである。

私の言う「孤独に戦える」ということは、「孤独である」という意味ではない。

私があえて言いたいのは、小さな会社の経営者は、最終の意思決定は自分の才覚でしなければならないということである。そのためには、正しい見識と判断能力、そしてなによりも自己責任を負えるだけの強い意志力が必要になる。

才覚、見識、判断能力、意志力。

そう書いた。その中で一番大切なものは、「見識」である。これだけが外部要因、それ以外は内部要因といえる。

つまり、才覚、判断能力、意志力は、個人の資質である。ある程度は経験により培われるが基本的に持って生まれたもの、という要因も大きいかもしれない。

見識は、経験によってのみ得られるものである。経験とは、前回書いたような、「勉強」によって得られた知識もそうだが、業界の内外で、いろんな個人や組織とのかかわりの中で取得された情報の事である。いや、それだけではない、文学や哲学や芸術、それらアートに触れることによって得られる教養や、出張先の外国で見聞きする雑多な、ちょっとした経験も含まれるだろう。

ここまで書いてきたように、「孤独に戦う=一匹狼」であるということは、独善的になることではない。「最終的な意思決定においていかに孤独になれるか」ということである。

逆の言い方をすれば、最終的な意思決定をする場面で大切なことは、「群れない」こと、そして「仲良しクラブを形成しない」こと。ビジネスの世界は友達形成の場ではない。このポイントを間違うと、得てして判断を間違うことになる。

たとえば業界において様々なブレイクスルーを考案しなければならない場面で、得てして斬新さと奇抜さの境が分からなくなってしまったり、正しいブレイクスルーの方法を見つけてもそこに立ち向かってゆく勇気をなえさせてしまうようなことになってしまう。

経営者は孤独に戦わなければならない。これも一つの大きな命題である。