商社にとってクレームは最大のチャンスか?

商社の本懐

今日は久しぶりに商社について書き留めておこうと思います。

以下の文章は、過去に自分のFacebookや別のブログに書いてきたことですが、今日は、もう一度、クレーム処理について商社の人間に考えてもらいたいことを書き留めておこうと思います。

よく言われる言葉に、「クレームは最大のチャンスである」という言葉があります。実は私の好きな言葉です。そしてよく社員達にも言っています。
この言葉はとても単純な真実を述べています。

今のように、景気が思わしくなく、市場がシュリンクしてゆく状況では、望まないのに価格競争に巻き込まれてゆきます。価格競争がメインの市場では、当然ながら他社との差別化は価格しかありません。正当な競争入札では一番価格が安かった会社が勝ちです。そもそもそれ以外の基準があれば競争入札は成立しません。しかし、よくよく考えてみると価格競争力と会社の規模は正比例すると私は考えています。(価格だけが競争要因である場合) 単純なことです。仮にある業界では価格競争が厳しく、どんなにコストカットの努力をしても5%の粗利しか取れないとします。事業規模が大きく年間100億円売上がある会社では年間5億円の粗利が確保できますが、事業規模が小さく年間売り上げが1億円しかない会社だと、粗利は500万円となります。年間500万円では、その利益から人を雇ったり、設備費や光熱費や営業費を払うことは苦しいかもしれません。
それゆえ企業はなんとか価格競争に巻き込まれないようにしたいと考えます。顧客のロイヤルティを(低)価格以外で勝ちえるために顧客サービス等、その関係性の中で様々な工夫を凝らそうとします。価格競争のない世界に行くために躍起になって新規事業を開拓しようとしても、なかなか見つからないからです。しかし、たとえば、顧客の囲い込みとか、顧客満足とか、CRMとか、もう聞きあきるほど聞いていると云うことは、その世界でも過当競争になっていると云うことでしょう。

そんななかで、さて、クレームです。私ども貿易商は、自分たちのミスでクレームになると云うことは実はそんなになく、たいがいクレームというと、海外メーカーとお客様(ユーザー様)との板挟みになることを指します。商品やサービスの品質の問題、納期の問題、なによりもそのクレームに対するメーカー側の対応における文化摩擦ともいえるべき齟齬。とくに受託事業はクレームの温床です。
さてどうしたものか・・・
どんなに長く商売をしていてもクレームというのはいつも嫌なものです。正直解決の糸口が見つからず夜も寝られないことが多々あります。特に損害賠償とか言われ始めると自社の存続も視野に入ってきます。(笑)
でも確実に言えることが一つあって、それは冒頭の言葉なのですが、やっぱり「クレームは最大のチャンス」なのです。単純なことです。日常の平穏無事な状態では価格競争しかないような業界では、上に書いたように、大きな事業会社の方が有利です。小さな会社には立つ瀬がない。しかしいったんクレームが起こると、平穏無事な日常は一変して非日常になります。価格競争以外で自社を知ってもらうことができるとてもいいチャンスなのです。物事をうまく解決できれば顧客ロイヤルティが極端に高まる千載一遇のチャンスなのです。もちろん、皆様お気づきの通り、このクレームは最大のチャンスである前に、最大のピンチであることは間違いありません。大概が顧客と商売をなくしてしまう大きな危機なのです。そして普通は顧客をなくします。それはクレームを云う側になった時を思い出すと判りやすいです。大概が、「こんなクソ会社二度と付き合うもんか!」と腹を立てている自分を思い出します。
では、クレームがチャンスになる時とはどんなときでしょうか? それは単純にクレームが解決して、お客様が、そのことに対して自社の対応に喜んでくれた時です。クレームの入り口ではお客様は大概怒っていたり、弊社に不満や不安を持っているので、それが仮に顧客満足に変わった時には、その先長く付き合っていただけるという最大のロイヤルティを得られるのも事実です。

では、どうすれば、クレームが最大のチャンスになり、お客様が喜んでくれて将来にわたる弊社へのロイヤルティを獲得できるのでしょうか?

実は、ノウハウなどありません。クレーム処理に王道もありません。そもそも「クレームは最大のチャンス」だなどと、ふざけた心がけで事に及んでいると、大概大きな損失を被ります。世の中そんなに生易しくありません。
なんだ、お前の言ってることは支離滅裂じゃないか、と云われそうですが・・・
「クレームは最大のチャンス」だったかどうかは結果論なのです。決して目論んで出来ることではないのです。
渦中で、逃げず、ごまかさず、真剣に向き合い、起こってしまったクライアント(川上・川下双方の関係者)の不利益を最小化することを第一義に考えて行動したものだけが、後から得られる実感だと思います。(商社の場合)
クレームが起こった段階では、お客様に不利益が生じています。その不利益をゼロにすることが出来なければ、せめて最小限にすること。できれば、その不利益を(決して自分のためではなく)なんとかお客様の利益に転換できないかとつねに考えて行動すること。当たり前の事ですが、お客様はそもそもなんらかの利益を得るために自社と付き合ってくれているのですから。そのお客様の利益の代償として弊社はお客様からお金をいただいている訳ですから。
ここでもう一つの大切なポイントは、この発生したクレームに関連して不利益を被っているのはメーカー側でもあると認識することです。メーカーも故意に顧客に不利益を与えようとして活動してきたわけでは決してないからです。顧客の利益とともにメーカーの利益も常に考えること。メーカーの利益とはもちろん金銭的なことにとどまりません。そのクレームによって損なわれるであろうメーカーの企業イメージや今後の商売の可能性の事です。
これがそもそも仲介者であるべき商社のクレーム処理の極意と言えるかもしれません。
そしてクレームに対処するにあったてこころがけることは、
逃げないこと
小手先でやらないこと
何が一番お客様の不利益を回避できることであるかをお客様とメーカー双方の立場で考えること
相手(お客様側とメーカー側双方)の言い分を素直に受け止めること。
もしお客様の利益を守るために、結果として自分が不利益を被ることになったら、それを甘受すること
そんなところでしょうか?

言っても、クレームで失うものは正直あります。しかし、(くどいですが結果論として)経験上チャンスになったことも確かにありました。
それは事実です。